JALと日本医師会との提携について思うこと

2016/02/07

JALと日本医師会との提携について思うこと

「お客さまの中にお医者様はいらっしゃいませんか?」
航空機内で急病人が出た際にキャビンアテンダントが乗客に対して現在行っている呼び掛け(ドクターコール)である。私はこれまでそういった場面に居合わせた経験は無いが、TVドラマや映画などで誰もが一度や二度は見た事がある光景となっている。これがなくなるかもしれないという事で多くの医師の方々も注目したニュースだと思う。

JAL DOCTOR登録制度について医師からの評判は?

今回の取り組みの中身はこうだ。日本医師会が発行する医師のICカード情報をJALへの登録(私は医師です、急病人発生の時にはお手伝いしますという意思表示)を希望(というより志願?)する医師はJAL(日本航空)のホームページから事前登録をする事で、急病人発生という不測の事態にキャビンアテンダントがその医師の座席を予め把握できている為、直接その医師に協力を求める事ができるというものである。
航空機の乗客の中に医師がいるか否かを事前に把握できる為、これまでのようなドクターコールが不要になるかもしれないという触れ込みで、この「JAL DOCTOR登録制度」を2月15日から運用開始する事になったようだ。
しかし、肝腎の医師からの評判は芳しくない。

診療に従事する医師には応召義務(医師法第19条 第1項)があるとはいえ(応召義務の是非についてはここでは触れない)、専門分野や力量を無視して全ての「医師」を一括りにしている点や日本における法制度の不備(災難に遭ったり急病になったりした人など窮地の人を救うために「無償で」「善意の行動」をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができる事をしたのなら、たとえ力及ばずともその結果につき責任を問われないという趣旨の法、これが日本では整備されていない、或いはグレーゾーンとなっている。)などから不安感を抱いた医師たちが多いであろう事は容易に想像できる。

医師であれば全くの素人よりはマシなのは確かだろうが、一般人が医師に過剰に期待し、過度な負担を強いるのは医師の疲弊や逃散を招きかねない。
必要な環境が整備される事無く、義務と結果責任だけを押し付けられるとしたら、みんなそんなところからは逃げ出すか近寄らなくなってしまうのは自明の理である。

医師の使命感と善意のみに依存する制度には少々無理があり、今回のJALの施策は問題提起や理想論としては有りだろうが実効性の面からは残念ながら片手落ちの印象を受ける。

JAL DOCTOR登録制度について医師からの声を集めてみた

以下、不安を感じる医師の声を集めてみた。

・医師といっても全知全能ではなく専門外の対応は困難な事を理解して欲しい。
・善意で最大限の協力をしても結果が悪ければ責任問題や訴訟に発展するリスクがある。
・限られた医療キットしかなく、検査もできない飛行機の中では医師も殆ど何もできないのが現実。過度な期待をされても困る。
・看護師や救急救命士の資格を持ったCAを養成する方がより実効性があるのでは?
・善意や使命感で助けようとしても救命出来なかった場合、訴えられるかもしれない。
・ER担当医であれば、ある程度対応できるかもしれないが、例えば皮膚科や眼科の医師にAMIや脳梗塞などの処置を求めるのは無理があり、酷な話しだ。
・法整備(善きサマリア人の法)が無ければ、現実的な運用は困難。最近も救助ヘリからの転落事故に対する訴訟があったばかり。
・勿論出来る事は全力で協力するが、既往歴が不明な急病人や専門外のケースなど期待に沿えない事もある。
・登録する医師にメリットが見当たらない。プライベートや休暇、或いは学会の移動中など勤務時間外くらいはゆっくり過ごしたいというのが本音。その場に居合わせれば出来る事は勿論協力するが飛行機の中でもオンコール待機状態の緊張感を強いられるのは正直辛い。
・そもそも医師会に入っていない医師が多い。

それに対して日本医師会の考えはどうなのだろうか。JALとの今回の取り組みが最初の一歩で、今後ANAや他の航空会社へと同様の取り組みを拡大していくのだろうか。
もし、JALとだけという事であれば、JALを利用する医師は恐らく減るだろう。
今後はJALへの搭乗を避けて、新幹線での移動に切り替えたり、どうしても飛行機に乗らなければならない場合はANAを選択するという医師が増えるだろう。
良い悪いという話しではなく、個人の選択の問題なので、第三者がとやかく言うべきものでもないだろう。

自分が出来る事は使命感や善意から出来る限り協力しましょうという医師は多いと思うが、医師も普通の人間である限り、誰しも自信が無い事や専門外で対応困難という事は当然ある訳で、医師免許を持っているというだけで、突然過酷な(不慣れな)緊急を要する現場に放り込まれ、重過ぎる責任を背負わされるリスクは避けたいというのはある意味で当然の心理と言える。

航空機内の突発的な急病人にオールマイティに対応できる医師のみ登録してくれれば良いという主旨であれば、それはそれで一歩前進といえるだろうが、闇雲に医師のみに重い責任を背負わせるようなものにならなければ良いのだがと感じたニュースである。

今回と対照的なDoctor on boardプログラム

今回のJALとは対照的に、ルフトハンザドイツ航空は同様の制度に対して協力してくれる医師へのインセンティブを設けているようだ。
「Doctor on board」プログラムというのがそれで、以下にLufthansaのHPから該当箇所を引用させていただく。

機内で医療援助が必要となった場合、「Doctor on board」プログラムにご登録の医師の方に援助をお願い致します。ご登録いただいた皆様にはルフトハンザより謝礼を進呈いたします。

・Miles & Moreの5,000アワードマイル
・「Handbook of Aviation Medicine: and In-Flight Medical Emergencies(航空医学・機内医療援助ハンドブック)」1冊
・プログラム参加者用にデザインされた特製バッゲージタグ「Doctor on board」
・次回のフライト予約でご利用いただける50ユーロ分のプロモーションコードを1回分、および定期的なキャンペーン
・ルフトハンザにてDeutsche Akademie Fur Flugmedizin(航空医学ドイツアカデミー)との提携による、ルフトハンザ医療サービスが提供するセミナー(有料)への参加。その際にはCMEポイントも取得できます。

ご登録時にMiles & Moreに医療専門分野の情報が登録されますので、緊急医療が必要な事態が発生した場合、客室乗務員が医師の方に援助をお願い致します。機内に医師の方が複数いらっしゃる場合には、様々な専門分野の協議が可能です。

【賠償責任と保険】
医療援助を行った医師の方は法的に保護されます。ルフトハンザドイツ航空がそのような事態に備え契約している責任保険の範囲で治療を受けた搭乗客からの賠償請求に対しては填補されますので、医師のお客様ご自身が責任を問われることはありません。ただし、故意による過失は除外されます。この免責は医師の方ならびに医療関係の援助者の方にも適用されます。

ルフトハンザの「Doctor on board」であれば登録する医師はかなり多いと思う。
人間心理をよく理解した仕組みで(センスというか、これが至極当然だろう)、これなら医師も安心して登録ができ、緊急の際には出来る限りの処置を行ってくれる事だろう。
医師たちも納得の上、使命感と善意を以って援助協力が出来るフェアな制度のような気がする。
日本のナショナルフラッグキャリア(今はJALなのだろうかANAなのだろうか?)も頑張ってもらいたいものだ。

さて、今日は医師転職とはあまり関係のない(しかし医師には重大な関心事と思われる)テーマを見てきましたが、
「医師転職コンシェルジュ」では、医師の皆様とできるだけフランクにお付き合いをさせていただき、人としての信頼関係をベースとした転職のお手伝いやキャリアを中心とした悩みの解決を微力ながらサポートさせていただく事を心掛けています。
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著者:三木正孝


医師転職コンシェルジュ代表。医師の方が自分らしい働き方、ライフスタイルを過ごす事が出来る様な転職支援を行う医師転職コンシェルジュを運営しております。医療業界や医師転職に関する情報に独自の意見も加えて発信していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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